研究内容(及び関心領域・業績)

【研究内容】
<流体力学における変分原理の改良>
 
実現される運動は作用積分を最小にする.これは変分原理と呼ばれ,物理学全般における指導原理の一つとして考えられている.この原理を用いれば,複雑な拘束条件があっても系の動力学の定式化を行うことができる.様々な完全流体の変分原理が古くから提案されている.また,オンサーガーの変分原理が散逸系であるソフトマターの動力学の定式化に便利であることが知られている.しかしながら,これらの変分原理はいくつかの未解決問題がある.私の研究では,これらの問題を解決する普遍的枠組みを与え,付随するハミルトン形式を整備する.研究の主要な結果は以下の3つである.
 
1.完全流体の変分原理
流体の速度場を記述する方法にはラグランジュ描像とオイラー描像の2つがある.ラグランジュ描像では,流体粒子ごとの物理量の時間発展を見る.一方,オイラー描像では,空間に固定された点での物理量の変化を見る.完全流体の運動方程式は,質点の運動と同様にしてラグランジュ描像の変分原理から導くことができることが知られている.一方,オイラー描像の変分原理では,一様エントロピー下で渦度のある速度場を導くためにはクレプシュポテンシャルと呼ばれる補助場が必要である.しかしながら,その物理的な意味は不明瞭であった.私の研究では、クレプシュポテンシャルが流跡線の初期位置と終端位置を固定するために必要であることが示された.なお,質量保存則と断熱条件はホロノミックな拘束条件である.したがって,未定乗数法で用いて,作用積分の中に組み込むことができる.
 
2.散逸系の変分原理
散逸系では,エントロピーは流跡線に沿って生成される.これはエントロピーに関して非ホロノミックな拘束条件を与え,上で用いた方法が使えない.しかしながら,この非ホロノミックな拘束条件の下で作用積分を最小にすることは,これが微分形式で書けることから可能である.我々の定式化は運動量のつりあいの式全体を導くことができる.一方,オンサーガーの変分原理で導出できるのはそのうちの線形項だけである.この定式化を粘性流体,粘弾性流体および高分子溶液に適用した。さらに拡散による散逸がある二成分流体の変分原理について指摘した.
 
3.ハミルトン形式
制御理論では,最適化された入力はコスト汎関数を最小にし,共役な関数の組としてハミルトン方程式を導く.第5章で,これを流体に適用する.速度場は入力とみなせ,状態変数はラグランジュ描像であれば流体粒子の位置となり,オイラー描像であればクレプシュポテンシャルになる.完全流体に対しては,これは正準なハミルトン形式になり,散逸系においては,これに散逸力が加わったものになる.また,付随する対称性と保存則についても指摘した.
 
 
【関心領域】
・物理分野
 変分原理 相対性理論 拡散方程式 ソフトマター 熱流体 複雑流体 液晶 
・工学分野
 制御工学 破壊 構造解析 熱伝導 
 数値解析
 前処理付き共役勾配法
・数学
 圏論 微分幾何学(ゲージ理論、多様体) 経路積分
 数値解析 並列計算 GPGPU
・コンピュータスキル
 言語 C CUDA Python PHP
 データーベース PostgreSQL
・語学
  英検準一級
 
 
【学会報告】
 
・国際会議
1)Hiroki Fukagawa, 「Variational principles for dissipative systems」,『The 4th International Symposia on Leading-Edge Research Activities for Global World GCOE International Symposium』, Yokohama, Japan, February, 2012
2)Hiroki Fukagawa, Youhei Fujitani, 「Variational principles for perfect and viscous fluids」,『8th Liquid Matter Conference』, Wein, Austria, September, 2011
 
・セミナー
1)深川宏樹 「A variational principle for a complex fluid」、ソフトマターの非平衡ダイナミクスに関する国際研究ネットワーク 第29回拠点形成コロキウム、京都大 2012 年 7 月 18 日 (水)
2)深川宏樹 「散逸関数と内部エネルギーからの変分原理による流体の運動方程式の導出」、『多自由度コロキウム』、名古屋大、2011 年 11 月 21 日(月)
 
・国内会議
1)深川宏樹「変分原理による散逸流体の運動量のつりあいの式の導出」、SGEPSS 波動分科会、『一般相対論と MHD プラズマ』、2011 年 12 月
2)深川宏樹「散逸関数と内部エネルギーからの変分原理による流体の運動方程式の導出」、『多自由度コロキウム』、名古屋大学、2011 年 11 月
3)深川宏樹、藤谷洋平「散逸系の運動方程式の変分原理による導出」、『第 10 回関東ソフトマター研究会』、東京大学生産技術研究所、2011 年 11 月
4)深川宏樹、藤谷洋平「非ホロノミックな拘束条件を課した変分原理によるナビエ・ストークス方程式の導出」、『日本物理学会 2011 年秋季大会』、富山大学、2011 年 9 月
5)深川宏樹、藤谷洋平「内部エネルギーと散逸関数を使った変分原理による粘性流体の運動方程式の導出」、『非平衡系の物理 -ミクロとマクロの架け橋-』、京都大学、2011 年 8 月
6)深川宏樹、藤谷洋平「散逸関数を使った粘性流体の変分原理」、『オイラー方程式の数理:カルマン渦列と非定常渦運動 100 年』、京都大学数理解析研究所、2011 年 7 月
7)深川宏樹、藤谷洋平 「Euler 的描像による完全流体の変分原理の再考察」、『日本物理学会』、2010 年秋季大会、大阪府立大学、2010 年 9 月
8)深川宏樹、藤谷洋平 「完全流体の変分法における Clebsch potential について」、『オイラー方程式の数理:力学と変分原理 250 年』、京都大学数理解析研究所、2010 年 7 月9)深川宏樹、藤谷洋平 「渦度のある相対論的完全流体の運動方程式の変分法による導出」、
『日本物理学会』、第 64 回年次大会、立教大学、2009 年 3 月
10)深川宏樹、藤谷洋平 「完全流体の力学における Lagrange 的 Lagrangian と Euler 的Lagrangian」、『日本物理学会』、2008 年秋季大会、岩手大学、2008 年 9 月論文リスト
 
【専門誌発表済み】
 
・国際誌(欧文)
1)Hiroki Fukagawa, Youhei Fujitani, Clebsch Potentials in the Variational Principle for a Perfect Fluid,  Prog. Theor. Phys. 124, 517-531 (2010).
2)Hiroki Fukagawa and Youhei Fujitani, A Variational Principle for Dissipative Fluid Dynamics, Prog. Theor. Phys. 127, 921-935 (2012).
 
・国内誌(和文) 
1)深川宏樹、藤谷洋平 「完全流体の変分法における Clebsch potential について」、『オイラー方程式の数理:力学と変分原理 250 年』(数理解析研究所講究録 京都大学 1749)(2011) 
2)深川宏樹、藤谷洋平 「散逸関数を使った粘性流体の変分原理」、『オイラー方程式の数理:カルマン渦列と非定常渦運動 100 年』( 数理解析研究所講究録 京都大学 1776 )(2012) 
 
【博士学位論文】
流体力学における変分原理の改良 慶應義塾大学大学院理工学研究科 2012 年度 博士論文
 

 

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